難しい話はちょっと・・・、という方もいるかもしれませんが、オカメの繁殖を考えている人は一通り覚えておいた方が何かと都合がいいと思います。特に、性染色体の遺伝は雌雄判別に大きく関わるので、是非マスターしておきたいところです。出来るだけ難しい単語を省いて解り易く説明したつもりですが、ちょっとぐらい解りにくくても読んでくださいね。遺伝子に興味のある人は、ともしは園のもう一つのコンテンツである国産グッピーの遺伝も見てみるのもいいかもしれません。あっちはちょっと複雑ですが・・・。

@常染色体の遺伝子とそのしくみ

A性染色体の遺伝子とそのしくみ

Bルチシナに関する考察

C実際の交配の見解




@常染色体の遺伝子とその仕組み

  常染色体の遺伝子と言うと、パイド、ホワイトフェイス、ファロー、シルバー等があります。現在どのぐらいの種類があるのか詳しいことは知りませんが、これらはドミナント(優性)シルバーを除き、概ね劣性遺伝をします。常染色体の劣性遺伝を簡単に説明すると、子は♂親と♀親の両方から半分づつ遺伝情報をもらい、2つ揃って初めて子の表現として現れます。
 
 (WF同士の交配、WFとノーマルの交配)
 WF同士のペアの子供は、WFの遺伝子を♂から半分、♀からも半分もらうので、WF同士のペアから生まれた子は皆WFになります。ところが、WFとノーマルのペアの場合、片親からWF、もう片方からノーマルの遺伝情報を貰い受けます。この場合、WFは半分だけではその発色を表現することが出来ないので、子はすべてノーマルになります。ただし、WFの遺伝子を半分持っているので、この状態を見た目ノーマルでWFのスプリットと呼びます。
 
 (WFスプリットとWFの交配)
 次に、このノーマルでWFスプリットとWFを交配するとどうなるかというと、スプリットはWFとノーマルの両方を持っているので、両親からWFをもらう子と、片方からWF、もう片方からノーマルをもらう子に別れます。結果として、半分の子がWF、もう半分の子がノーマルでWFスプリットになります。
 
 (WFスプリット同士の交配) 
 今度は、WFスプリット同士を交配してみます。そうすると、両親から、WFをもらう子、WFとノーマルをもらう子、ノーマルをもらう子の3パターンとなり、WFとノーマルの子が25%づつ、ノーマルでWFスプリットの子が50%の確率で出現することになります。ただし、この場合ノーマルとWFスプリットの子は見た目は同じノーマルなので、外見で区別することはできません。

 
 シルバーに関しては、レセッシブシルバー(劣性)とドミナントシルバー(優性)の2種類があります。レセッシブは上記と同様ですが、ドミナントシルバーはその名が示すように優性(ドミナント)遺伝をします。簡単に説明すると、劣性では2つ揃わないと表現できないのですが、優性の場合は半分でもそれを表現することができるのです。つまり、ドミナントシルバーはスプリットが存在しません。半分持っている段階でシルバーを表現するからです。そのため、半分だけなのか、それともシルバーの遺伝子を2つ持っているかを区別するために、ドミナントシルバーにはちょっとうっとおしいですが、シングルファクター、ダブルファクターという長ったらしいネーミングがついています。実際はSF(シングルファクター)とDF(ダブルファクター)では発色に違いが出るようです。

 (ドミナントシルバーDF同士の交配)
 子は全てドミナントシルバーDFとなります。

 (ドミナントシルバーDFとノーマルの交配)
 子は全てドミナントシルバーSFとなります。
 
 (ドミナントシルバーSF同士の交配)
 ドミナントシルバーDFとノーマルが25%づつ、SFが50%。

 (ドミナントシルバーSFとノーマルの交配)
 ドミナントシルバーSFとノーマルが50%ずつ。



A性染色体の遺伝子とその仕組み

 性染色体の遺伝子は、最もポピュラーなルチノーをはじめ、パール、シナモン、シナモンパール、ルチノーパール等があります。性染色体の遺伝を覚えることの最大の利点は、親の組み合わせによって、生まれてくる子供の雌雄判別が出来る場合があることです。オカメのヒナは外見上で雌雄を判別するのは大変難しいことなので知識として是非ともマスターしておきたいものです。
 人の性染色体はX,Yで表され、XYが男、XXの組み合わせが女を決定します。オカメの場合はZ,Wで表され、ZZが♂、ZWが♀になるようです。各品種を表す遺伝子はZ染色体に存在し、Wにはありません。つまり、♂は品種に関する遺伝子を2つ、♀は1つ持っていると考えると解り易いです。
 まず、基本品種としてノーマルが存在します。通常、他の品種の遺伝子を持っていない場合はノーマルになると思っておけばいいでしょう。ノーマルとルチノーを使って遺伝の仕方を説明するとして、ノーマル♂とルチノー♀のペアからは、どんな子がうまれるのでしょうか?
 まず、Z染色体を2つ持てば♂、1つなら♀ということを頭に置いておかなければなりません。要するに、♂のZ1つと♀のZ1つを受け継ぐと♂になり、♂のZと♀のWを受け継ぐと♀になります。このペアの場合、ルチノー遺伝子は♀が1個持っているだけで、この1個は♂となる子に受け継がれます。そうすると、生まれてくる♀は、ルチノーの遺伝子を受け継ぐことはないので、すべてノーマルになります。♂はというと、♀親からルチノーを1個受け継ぐのですが、♂親はルチノーを持っていないので、オス親からルチノーを受け継ぐことは出来ず、ルチノーを1個しか持っていない状態になります。♂はルチノー遺伝子1つだけではルチノーにはならず、結果すべてノーマルの子となります。ただし、ルチノーの遺伝子を1個持っているので、ルチノーのスプリットと呼ばれます。常染色体のところでもこのスプリットという言葉が使われますが、正確には性質が違いますので、しっかり区別しておいた方が良いでしょう。ちなみに♀は1個でその品種を表現することが出来るので性染色体遺伝子のスプリットは存在しません。
 
 次に、ルチノー♂とノーマル♀の場合はどうなるのでしょうか?この場合、♂はルチノーを2つ持っています。♀の子は♂親からその遺伝子を受け継ぐ訳ですから、生まれてくる♀の子はすべてルチノーになり、♂の子は♂親からルチノーを受け継ぎますが、♀親はルチノーを持っていないので、生まれてくる子すべてノーマルでルチノーのスプリットとなります。つまり、このペアからは♂はノーマルでルチノーのスプリット、♀はルチノーとなり、雌雄判別が可能なわけです。基本的には、♂親が何かのスプリットでなければ♀は♂親の品種で生まれてきます。ただし、雌雄判別を行う場合、両親の素性がしっかりと解っていないといけません。なぜかというと、スプリットは見た目では解らないからです。

・ルチノー♂×ルチノー♀
♂:ルチノー
♀:ルチノー
雌雄判別不可

・ルチノー♂×シナモン♀
♂:ノーマル/lu.cn(ルチノーとシナモンのスプリット)
♀:ルチノー
雌雄判別可

・シナモン♂×ルチノー♀

♂:ノーマル/lu.cn
♀:シナモン
雌雄判別可

・ノーマル♂/lu.cn×ノーマル♀
♂:ノーマル/luまたはノーマル/cn
♀:シナモンまたはルチノー
雌雄判別可

・ノーマル♂/cn×シナモン♀
♂:シナモンまたはノーマル/cn
♀:シナモンまたはノーマル
雌雄判別不可

ノーマル♂/cn×ルチノー♀
♂:ノーマル/luまたはノーマル/lu.cn
♀:ノーマルまたはシナモン
ノーマルは雌雄判別不可、シナモンは♀

というように、親の素性が解れば生まれてくる子はある程度予想できるし、雌雄も判別できることがあります。逆に生まれてきた子によって、♂親のスプリットを判別できることもあります。



Bルチシナに関する考察

 皆さんは不思議に思ったことはないだろうか?ルチパーやシナパーがいるのに何故ルチシナはいないのか?

 先ず、ルチパーとシナパーがどういう遺伝子なのかを確認してみる。シナパーは、文字通りシナモンとパールの両方を表現するものであるが、シナモンとパールを交配すれば簡単に作れるものであろうか?答えはNOだ。
 シナモンの♂がシナモン遺伝子を2つ持ってシナモンを表現しているとすると、パールの♂はパール遺伝子を2つ持っている。で、シナモンパールの♂はというと、シナモンパール遺伝子を2つ持っているのだ。決してシナモンとパールを1個づつ持っているわけではない。ただ、シナモンとパールを交配してシナモンパールを作ると言う考えは間違ってはいない。シナモンパールという遺伝子が作られるためには、シナモンとパールの間で遺伝子の組み換えが起こる必要があるのです。掻い摘んで説明すると、生殖細胞ができる時の減数分裂の際に、2本ずつある相同染色体が並び、中間でねじれが起きて、この部分で両染色体が切断し、それぞれ相手の相同染色体の部分と結合して、染色体の組換えが起る。こうして出来るのがシナパーでありルチパーである。遺伝子組み換えの起こる頻度は、2つの遺伝子の距離に関係し、距離が長いほど頻度は高まるらしいのだが、まあ、ごく稀に起こるくらいに認識しておけば良いと思う。
 そこで、ルチシナについてですが、シナモンとパール、ルチノーとパールの間でこの遺伝子の組み換えが起こっているのなら、ルチノーとシナモンの間でも起こっていると考えるのが自然である。「あっ、シナモンのペアからルチノーがでた!」という話はよくあるようだが、これこそがルチシナであると私は思う。どういうことかと言うと、ルチノーとシナモンが同一染色体に存在した場合、シナモンの発色はルチノーの発色に覆い隠される状態となり、発現できないと考えられる。こう考えればシナモンのペアからルチノーが出ても何ら不思議はないのである。
 ルチノーが出るシナモンのペアの遺伝子構成を考えてみると、♀がルチシナを持っていた場合、シナモンにはならないのでこれはあり得ない。同様に♂がルチシナを2つ持っていた場合もルチノー表現になるのでこれも無い。つまり、♂が1つだけルチシナを持っている状態であり、これは生まれてきたルチノーが♀であることを表している。
 このルチシナの存在が雌雄判別に大きく影響するケースがある。シナモン♂×ルチノー♀の交配がその一つだ。通常、このペアから生まれるのはノーマルの♂とシナモンの♀であるが、このペアの♂がルチシナを1個持っていて♀がルチシナであると仮定すると、シナモンは雌雄両方が出現し、ノーマルは出現せず、ルチノーの雌雄両方が出現する。雌雄判別は不可能となる。
 こんなのを色々考えていると、頭が痛くなりそうだが、私にはもうひとつ疑惑を感じているものがある。ルチノーシナモンパールというのもいるんじゃないの?という疑惑だ。これを確かめるにはルチパーの♀にシナモンの♂をかけて、シナモンの♂が出ればビンゴ!である。

(注:この「ルチシナに関する考察」の全文は私の推測であり、確定事実ではないことをご了承ください)


C実際の交配の見解


 実際に交配した結果を基に、遺伝構成を推測してみます。

(ア)れんこん×ぱせり(シナモン♂×ノーマル♀)
 このペアは、常染色体の色変わりの遺伝子はいずれも持っていませんが、♂がシナモン遺伝子を持っています。ものすごく噛み砕いて表現すると、♂は色変わりの遺伝子を2つ持っていないと表現できず、♀は1つ持っていれば表現できます。とすると、この場合、♂がシナモン遺伝子を2つ持っていて、♀は持っていないことになります。
 そうすると、交配結果は、
  ノーマル♂(シナモンスプリット)とシナモン♀が生まれることになります。
 ところが実際に生まれたのは、ノーマルとシナモンとルチノーパールが生まれました。♀親がノーマルである以上、♂はノーマルしか生まれないので、ルチノーパールの♀が生まれたことになります。これは、♂親がルチノーパールのSPであった証拠なのですが、♂親はシナモンなので、シナモンは必ず2つ持っているわけですから、ルチノーに隠れてシナモンの発色は確認できませんが、ルチノーシナモンパールだということになります。というわけで、♂親は、シナモンでルチノーシナモンパールのSPということになり、生まれたノーマル♂の子は、シナモンのSPもしくは、ルチノーシナモンパールのSPになります。

(イ)はんぺん×ちくわ(WFノーマル×WFパール)
 このペアは、WFパールのペアとして迎えたものです。パールの♂は、成長とともにパール模様が消えていくので、成熟するとWFノーマルと区別がつかなくなりがちです。基本的にはWFパールのペアの場合、子供はWFパールしか生まれません。
 で、実際の交配結果は、
 WFノーマルとWFパイドとWFルチノーが生まれました。
 実際、WFパールの♂を使った場合、パールが生まれないことはまずあり得ません。つまり、この♂親はパールではなく、最初からノーマルだったと言うことです。
 ♂親がノーマルということは、何かのスプリットで無い限りノーマルしか生まれませんが、アルビノ(WFルチノー)が出たことで、ルチノーのSPであったことが解ります。パイドに関しては、常染色体の遺伝子ですから、♂♀両方の親がパイドのスプリットであったことになります。
 結果的には、アルビノは♀、WFノーマルとWFパイドについては、雌雄不明。♂であれば、パールのSPとなり、25%の確率でルチノー及び50%の確率でパイドのSPになります。♀であれば、同様に50%の確率でパイドのSPとなります。
  この段階で推測できる両親の遺伝構成は、
  ♂親WFノーマルでルチノーとパイドのSP、♀親WFパールでパイドのSPとなります。  

(ウ)かいわれ×いちご(WFノーマル♂×WFパール♀)
 
通常このペアから生まれるのはWFノーマルだけなのですが、実際に生まれたのはWFパール、WFノーマル、WFルチノーの3種類が生まれました。これは、WFノーマル♂が何かしらのSPであるために起こっている現象です。
 このWFノーマルの両親は、♂親WFルチノー、♀親WFパイドなので、ルチノーのSPであることは推測できます。ところが、その場合、WFルチノーは生まれてもWFパールは生まれません。つまり、パールのSPでもあるはずなのです。
 ♀親からはノーマル遺伝子を受け継ぐので、♂親からルチノーとパールの両方をもらったことになります。ということは、ルチノーパールの遺伝子を受け継いだと言うことです。WFルチノーパールは、見た目はほぼWFルチノーとなりパールを見分けることは非常に難しいものです。要するに、♂親はWFルチノーパールであり、このWFノーマル♂もルチノーパールのSPだったことになります。
 結果として、WFパール♂/ルチパーSP、WFルチノーパール♀、WFノーマル♂/パールSP、WFノーマル♀が生まれることになる訳です。今回は、生まれた雛の結果から、親の遺伝構成に加えておじいさんの遺伝構成までも判別できる形になりました。