仔を採ったり、育てることがある程度できるようになってくると、次のステップとして、系統維持や他品種との交配、オリジナル品種の作出などがあります。
 熱帯魚飼育は「グッピーに始まり、グッピーに終る」と言われるくらい、グッピーは入門魚であると同時に奥の深い魚といえます。丈夫で繁殖し易いのが入門魚と言われる所以ですが、品種の多さ、表現の多様性、これらを操る楽しさ、尚且つ新しい発見もできる。それが、グッピーの奥深さです。しかし、その為には遺伝の理解は必要不可欠と言えるでしょう。
 まあ、遺伝のしくみを知らなくてもある程度は楽しめるし、そういう話は苦手という人もいると思うので、無理に覚えることもないと思いますが、一旦理解してしまえばグッピーが100倍楽しくなること間違いなしです。たぶん・・・・。

(使用している用語、表記、表現は便宜的に使用しているので正式のものとは違う部分が多々あることをご了承ください。)

1.常染色体の遺伝のしくみ 2.性染色体の遺伝のしくみ 3.常染色体の遺伝子
4.性染色体の遺伝子 5.不完全優性の遺伝子 i(r) 6.ロングフィンの遺伝子
7.スワローの遺伝のしくみ 8.遺伝子組み換え 9.品種の考察




1.常染色体の遺伝のしくみ

 RRE.Aをはじめとする、主に体色に大きく関わるのが常染色体の遺伝子である。常染色の遺伝子は、♂親♀親からそれぞれ半分ずつもらうと考えると解りやすい。この時に、優性遺伝と劣性遺伝の違いがあるのですが、優性の場合は♂♀のどちらか一方から遺伝子をもらえばそれが子に表現されるが、劣性の場合は♂♀両方からその遺伝子をもらわないと表現できない。RRE.Aも劣性遺伝であるが、RRE.Aの個体を(a,a)(←ホモ接合体)と表現することがある。小文字は劣性であることを意味し、2つあるのは両親から一個ずつもらうという意味で便宜上、こう表現する。RRE.A同士の交配では、両親共(a,a)であるから、子の遺伝子構成は(a,a)以外にはならないので、生まれる子は全てRRE.Aとなる。では、RRE.Aとノーマル体色(グレイ体色)の交配では子の表現はどうなるのだろうか?
 まず、ノーマル体色の個体を(A,A)と表現する。(劣性のa,を持っていないという意味)。(a,a)×(A,A)の交配結果は、片親からa,もう一方からAをもらうので、子は(a,A)(←ヘテロ接合体)という遺伝子構成となる。劣性aは、半分だけではその発色を表現できないので(a,A)の個体の表現はノーマル体色となり、RRE.Aの子は生まれない。そして、今度はこの見た目はノーマルで(a,A)という個体同士を交配すると、(a,A)×(a,A)であるから、子の遺伝子構成は(a,a)と(a,A)と(A,A)の3パターンで、出現率は1:2:1となり、RRE.Aは25%出現することになる。
 
    RRE.A同士→(a,a)×(a,a)→すべて(a,a)→    すべてRRE.A
    
    RRE.Aとノーマル→(a,a)×(A,A)→すべて(a,A)→すべて見た目ノーマル(ヘテロ)

    ヘテロ同士→(a,A)×(a,A)→(a,a),(a,A),(AA)→ (a,a)=RRE.A25%
                                 (a,A)=見た目ノーマル50%
                                 (A,A)=ノーマル25%  
    
    RRE.Aとヘテロ→(a,a)×(a,A)→(a,a),(a,A)→  (a,a)=RRE.A50%
                                 (a,A)=ヘテロ50%

という感じである。これは劣性遺伝の場合で、優性はロングフィンのところで後述する。





2.性染色体の遺伝のしくみ

 常染色体の遺伝は雌雄の違いは無いのですが、性染色体の遺伝子はその名のとおり♂♀によって遺伝の仕方が違ってくる。
性染色体の遺伝子はX,Yで表され、グッピーの場合♂は(X,Y)、♀は(X,X)という構成である。このX,Yにグラスやモザイクといったような品種を表す遺伝子があり、その組み合わせによって多種多様なグッピーが作られる。Yという遺伝子は概ね体色に影響を及ぼすものが多く、アクアマリンやコーラル、ギャラクシー等。対して、Xは尾びれを構成するものが多いとされているが、グッピーの遺伝子は頻繁にX,Y間を移るし、支配領域も明確でないので、基本形として認識しておいた方がいい。
 

 ここで♂♀を交配した時に、X,Yがどのように移動するか考えてみましよう。

♂(X1、Y)、♀(X2、X3)とすると、
    
(X1,Y)×(X2,X3)→@(X1,X2)、A(X1,X3)、B(X2,Y),C(X3、Y)の4種類となる。

 
 @とAは(X,X)の組み合わせであるから♀となるが、注目するべきはどちらも♂が持っていたXと、♀が持っていたXで構成され、元の♀親と同一の遺伝子構成ではない点である。
 同様にBとCは♂となるが、いずれも♀の持っていたXで構成され♂親と同じではない。さらに、BとCはそれぞれ♀親の持っていたX2とX3で構成されているので同一ではない。Yについては、最初から1つしかないのでB、C、♂親とも同じである。
 よく子を採ったら親とは少し違う子になったというのを聞くが、親と全く同じ遺伝子構成の子は生まれないので、これは当たり前の話である。俗に言う、固定率の高い品種というのは、この3つのX染色体がほぼ同一のもので構成されている状態で、この場合は比較的安定して親魚と同じ子が採れることになる。

 次に、Bの♂と@の♀を交配してみると、

B(X2,Y)×@(X1,X2)→@’(X1,X2)、A’(X2,X2)、B’(X1,Y)、C’(X2,Y)となる。


 注意して見てみると、C’は親魚であるBと同じであり、B’は元の♂親と同じである。さらに、A’の♀は(X2,X2)で同じXで揃っていて、これとBの♂と交配するとXは全てX2で統一される。
 基本的にYは♂から♂へ遺伝するが、Xは♂♀間を移動し続けていることになる。先祖がえりなどという言葉を聞くことがあるが、これは一旦離れた遺伝子が交配を続けることによってたまたま戻ってきただけで、よく考えれば別に不思議なことではない。理解するまでは難しいかもしれませんが、覚えてしまえば以外と単純なことなので是非覚えておきたい。

 アクアマリングラスの♂とモザイクの♀を交配してみる。

アクアマリングラス♂を(Xグ、Yア)、モザイク♀を(Xモ、Xモ)とすると、(←Xモは同一のものとする)

(Xグ、Yア)×(Xモ、Xモ)→@(Xグ、Xモ)、A(Xグ、Xモ)、B(Xモ、Yア)、C(Xモ、Yア)となる。

 この場合、採れるのは♂は(Xモ、Yア)でアクアマリンモザイクとなり、♀は(Xグ、Xモ)で見た目はモザイクになる。(これはグラスとモザイクは上下関係がありグラスは表現されない為)

次に、この♂と♀を交配すると、

(Xモ、Yア)×(Xグ、Xモ)→@’(Xモ、Xグ)、A’(Xモ、Xモ)、B’(Xグ、Yア)、C’(Xグ、Xモ)となり、

@’は見た目モザイクの♀(グラス遺伝子を持っている)、A’はモザイク♀、B’はアクアマリングラス♂、C’はアクアマリンモザイク♂である。この場合、C’とA’を交配すればその後はずっとアクアマリンモザイクが出現し、一応固定されるが、@’の♀を使うとアクアマリンモザイクとアクアマリングラスが出続ける。

 どのように交配するかは好みの問題であるが、無造作に交配を繰り返すのではなく、ある程度狙いをつけて交配すると以外と楽しいので是非いろいろ試してほしい。





3.常染色体の遺伝子
 
 リアルレッドアイアルビノ
   現在、最も多くの品種のバリエーションとして普及している遺伝子だと思われ
  る。体色は色素が少なく白に近い色になり、目は名前が示すとおり赤くなる。以
  前は、弱いとか繁殖しにくい、大きくならないとか言われていたが、最近のもの
  はノーマルと比べてもほとんど違わない気がする。ただ、視力が弱いらしく捕食
  が下手なのでそこら辺を気をつければ良いと思う。

  ブルー
    ブルーグラスに代表されるブルー○○というグッピーが持っている不完全優
   性の遺伝子。詳しくは後述するが、ヘテロの状態の時にブルーを発色し、ホモ
   で揃うと色や柄はほとんど表現されず、ブラゥと呼ばれる青白いグッピーになっ
   てしまう。


  ドゥンケル
    ブルーでは、ホモになると青白い発色しかできないが、ドゥンケルの場合はホ
   モでいわゆるブラゥレッドテールを表現することができる。他の遺伝子と組み合
   わせて今まで出来なかった発色などを作れる可能性のある遺伝子。でも滅多
   に見かけない。


  タイガー
    鱗が黒く縁取られて、ぱっと見は黒いグッピーに見える。ちょっと人気薄か
   な。

  ゴールデン
    
体色は黄色っぽい感じで、目は赤くならない。ゴールデンを使うと体が大きく
   なるというウワサがある。ドイツイエローやレッドテールなどと相性が良いらし
   い。

  アルビノ
     体色はリアルレッドアイとよく似ているが、目はそれほど赤くならない。リア
    ルレッドアイはブルー系にしても綺麗に青を発色するが、アルビノでは青が
    綺麗に発色されず、アルビノブルー○○と言うグッピーはあまり見かけない。
    代表的なのは、何と言ってもアルビノレッドテールだろう。

  ソリッド
     エルドラドやミカリフなどに見られる、♂の体をメタリックに塗りつぶす遺伝
    子らしい。いじったことがないのでよく解らないですが、ヒレは柄が入りににく
    く大きなデルタテールにはなりにくいようである。ミカリフは非常に活力があっ
    て大きいものが多いらしい

   ※リボン、スワロー、Faについては後述する。





4.性染色体の遺伝子

実際はかなりの数の遺伝子がありますが、ここでは代表的なものを紹介します。

グラス ブルーグラスに代表される尾びれに細かいスポットがたくさん入るもの。やや力が弱くモザイクやタキシードがあると表現されない。
モザイク グラスよりも大柄な模様で、色が濃いイメージがある。比較的維持が難しいが、良個体の綺麗さは絶品。結構太くて多きいものが多いように思う。
タキシード ドイツイエロータキシードに代表される、ボディの後半を濃いグリーンから濃紺に発色させる遺伝子。
レッドテール 文字どおり赤いテールを表現するが、ボディにも影響を及ぼしているように思う。原則的にはX染色体にあるらしいが、Y染色体にもあると思う。
ブルーテール レッドテール同様、尾びれを青くし、ボディにも影響力がある。常染色体のブルー遺伝子とは完全に別物。
ピンクホワイト ボディをメタリックなピンクっぽい感じに発色させます。尾びれはオレンジがかかったものが多く、これは淘汰されることがおおく、白い尾びれが良いとされているみたいです。自分はオレンジも結構いいと思う。最近は、Xホワイトなども出てきてあまり見かけない。
ブラックテール ほぼマイナーであるが、形質は安定していて維持しやすいし、尾びれも大きく展開し、なかなか良いですよ。色々使えそうな遺伝子。
コーラル ボディにメタリックなオレンジの発色が基本らしいが、組み合わせる遺伝子によって発色が変化する。
アクアマリン ジャパンブルーとも呼ばれるボディをメタリックブルーい発色させる。これにプラチナを乗せたプラチナアクアマリンと共に、いろんな品種と交配することによって、様々なアクアマリン○○というグッピーが作られている。
コブラ ボディにメタリックなうねうね模様を形成する。X染色体のレースがYに移ったものとも言われる。コブラ模様は結構不安定で他の遺伝子の影響を受けやすいようだ。コブラの代表格はやっぱりキングコブラかな?
レース 尾びれに細かいスポットが入り、グラスよりもさらに薄い感じになる。綺麗なデルタテールにはなりにくく、いわゆる中落ちのもが多い。
ギャラクシー コブラに似ているが、プラチナ+レースがY染色体上にあって表現される。遺伝子構成てきにはメデューサと同じであるが、メデューサはYにプラチナ、Xにレースで作られる。ギャラクシーはY染色体上にあるので、♀をかえればいろんなタイプが作れる。代表的なのはなんと言ってもギャラクシーブルーグラスであろう。
オールドファッション
ダブルソード
サンタマリア
プラチナ